「銀座そばきりや 山形田」の新聞広告を追い求めて

「銀座そばきりや 山形田」の新聞広告を追い求めて
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出会い、そして意識

新聞を読んでいると、いろんな新聞広告が目に入る。
よく見ると、とても小さい広告もちょいちょいある。


▲小さい広告例

うちは東京新聞を取っているのだが、そんな小さい新聞広告の中で、ずっと気になっているものがあった。


▲これ!

「銀座そばきりや 山形田」の広告である。

まず目に入るのは、和装の女性。そして中央にある、ぼやけた店内の背景。
この広告のサイズは横34mm×縦32mm。ちょうど新聞1段の高さに納まっているもので、パラパラ新聞をめくってたら見落としてしまうくらいさり気ない大きさだ。

そんなサイズ感にも関わらず、なんだか不思議な雰囲気と妖しげな魅力を感じてしまったのだ。

最初に出会ったのは2019年のいつだったか。
偶然見かけて、その時はなんとなく気になった程度だった。
それが、たまに新聞を開いていると、ちょいちょい同じ広告を見かけるのだ。

そう、これは一回こっきりの広告ではなく、同じものが継続して掲載されているようなのだ。

それに気づいてからは、新聞を開くたびに、「今日は山形田あるかな~」と意識するようになっていった。
「ほらほら、今日は山形田あったよ~」と奥さんに報告しては、はいはいと呆れられていた。

とはいえ、この当時(2019年)はまだ、ただ気にするだけだった。

2019年の12月頃から、「いつまで20周年を掲げているのだろうか」という興味がわいた。
よく、”閉店大セール”と掲げて何年も続けているお店があるように、もしかしたらこの広告もしれっと20周年を掲げ続けるのではないだろうかという、穿った興味を抱いたのだ。
それと同時に、「誰も気づかないと思ってるかもしれないけど僕はちゃんと見てるよ…フフフ……」という秘めた想いがあったのだった。

突然の変化にドッキリ

あれは忘れもしない、2020年1月5日の新聞だった。
そこに今年最初の山形田の広告が載っていた。

昨年から気にしていた20周年が変わったりするかなと思っていたら、そんなレベルじゃない変化が起きた。


▲似顔絵になった!!

えっ、まじで!?こんなことってある?

この女性はおそらく去年までの広告に載っていた女性で、きっと山形田の女将さんなのであろうと推察される。

いつも当たり前のようにあると思っていたものが、突然こんな変化が訪れることがあるのだと思い知らされて、「これはちゃんと定点観測しなきゃいけない案件だ!」と認識を改めた。


▲決意のツイート

山形田広告の定点観測

まずは1月上旬時点でうちに残っていた古新聞をすべてもってきて、さかのぼっての観測を開始した。
そして、日課として新聞をチェックして収集していった。

さかのぼれた2019年12月13日から、2020年3月末までの結果は以下の通り。

●収集


▲アルバム:山形田 ※多いので2月末まで

●観測記録


▲手帳に記録メモ ※広告があった日に、○に山の字

●取りまとめ


▲エクセルで表にしてみた

●わかったこと

2019年12月頃~2020年3月頃までは、およそ水木金の掲載周期で、市場だよりの空きスペースに掲載されているのがわかった。
この期間でデザインの変化は特になかった。

●“ない”の収集

収集を続けるうち、ほんとにないことの確認も兼ねて、山形田が載ってなくても収集するようになってしまった。


▲アルバム:山形田(ない)

これ、片手袋研究家の石井さんが、片手袋がなくなった場面も記録するようになったのと似てるなと思った。

もっと過去が知りたい

さて、現在の観察は日々行うとして、次第にこの広告の過去が気になってきた。
・これはいつから掲載されていたのだろうか
・デザインは他にもあるのか、その変遷は?
・他紙でもあるのか?
などなど。

気になることはいろいろ出てくるが、とりあえずできることからやってみようってことで、図書館へ行って過去の新聞を調べてみることにした。

図書館で調査

2020年の2月中旬のある日、駅前の中央図書館へ行った。


▲駅前の中央図書館

図書館で過去の新聞見るのは初めてだった。
ここの図書館では、過去1年分の各種新聞が書架に格納されているようだった。
勝手に見られないので、職員の方に声をかけて見させてもらう。
新聞の種類によって棚が分けられ、新聞は半月分で一束にまとめられていた。

とりあえず東京新聞の2019年1月前半分から着手した。

1年前の記事がどれも懐かしい。
うっかりするとふつうに読んでしまうので、いかんいかんとぱらぱらめくって、山形田を探す。

そしてめくっていて気づいたことがあった。

そうだ、夕刊があった!

うちは朝刊しか取っていないのだ。

●さっそく発見

そして、最初に見た夕刊の一面に、今まで見たことなかったデザインの山形田が!


▲いきなり見っけ!


▲わりばし!

サイズは横12mm×縦83mmで、2段分の長さ。
この細さの中に、お店の名前と電話番号しか書いてないシンプルさ!
すごいな!

見ていくと、どうも夕刊すべてに掲載されているようだ。
まじか。

●朝刊にはいつもの

朝刊のほうは、1月時点ではこんな感じ。


▲“もうすぐ20周年”という表記

2019年の1月時点では、毎日ではないものの、かなりの頻度で掲載されていた。
この時期はそうだったのか。どうりでよく見かけてたわけだ。

●まだあった!

ひたすら記録して、前半分の新聞の束を見終わったら、後半分の新聞の束を調べていく。
たまたま新聞束の後ろ(つまり夕刊最後のページ)を見たら、山形田の文字が目に飛び込んできた!


▲まさかここにも!


▲“山形県特命観光つや姫大使”

夕刊の最終面はテレビ番組欄になっていて、NHKEテレの最下段にスペースがあるのだが、実はそこにも広告があったのだ!
サイズは横38mm×縦16mmで、黒字にお店の名前という、これまたシンプルなデザイン。
“山形県特命観光つや姫大使”と謳われているが、山形県特命観光つや姫大使ってなんだろう?
「やまがた特命観光・つや姫大使」について

念のため他の日も見直したら、やはり載っている。
つまり夕刊は2つ広告出してるということだ。
まじか。すげーな。

完全に盲点だったので、改めて1月前半からチェックし直した。

●取りまとめ

というわけで、この日半日かけて図書館で調べた範囲ではこんな結果だった。


▲2月は間違えて後半から調べてしまった

●わかったこと

夕刊には一面と最終面にそれぞれ異なる広告が載っている。
夕刊が休刊の日曜以外、毎日載っている。
朝刊のほうは、市場だよりがないであろう月曜は載っていない。
2019年1月2月は、月曜以外の載ってない日は不定期ぽいが、12月よりも高頻度で載っている。

図書館が休館に

引き続き調査を続けたいと思っていたものの、仕事が忙しくなって余裕がなくなったというのと、コロナウィルス対策のために3月に入ってから図書館が休館になってしまったことが重なって、新聞広告の調査はとん挫してしまった。

でも、とてもこのままじゃ終われない。
気になることがまだまだいっぱいあるのだ。

どうしたものか……

あ、そうだ。
ググればいいのか。

ググった。

ふつうに出てくる。

食べログを見たら、評価3.70(※)の高評価! ※2020年3月の検索時点
しかもコメント200件以上、保存10,000件以上って、すごくない?
勝手に地味な先入観を抱いてしまっていたが、実は結構な人気店なのではないか。
投稿写真から、なんとなくお店の雰囲気が伝わる。

ネットでいろいろ調べていくうちに、山形田の女将さんと思われる方のtwitterとFacebookアカウントを発見してしまった。
特にFB中心に投稿されているようで、お店のいろんな写真がアップされている。

これをたどっていけば知りたかったことが知れるかも・・・

いや、でもなんか違う気がする。

今までは広告のみに興味があったのだが、いつしか、ちゃんとお店に行って話を聞きたい!という気持ちがわき上がっていたのだった。

しかもこのご時世、うかうかしてるといよいよ行けなくなるかもしれない。

いざ山形田へ!

2020年の3月下旬に、仕事の帰りに行ってみた。

夜の銀座、とあるビルに輝く山形田の文字。

おお、ついに来てしまった。


▲階段の踊り場でも看板


▲入口脇

いちいちテンションが上がって写真を撮ってしまう。

聖地巡礼ってこんな気持ちなのだろうか。

後ろに人の気配を感じたので、写真はそこそこでいざ店内へ。

お客として邂逅

入口の戸を開けると、そこはこじんまりした店内で、食べログで見てたお店の雰囲気通りって感じがした。
お客は一人だけぽかった。
女性の店員さんに、入口側のテーブル席をどうぞと案内された。
ちょうどカウンター席ごしに厨房が見える位置だった。
お店の人は女性が2人だけで、案内してくれた店員さんは女将さんぽくはなかったので、もう一人のあの人が例の女将さんかしらなどと、ちらちら盗み見ながら思った。
テーブルに置いてあるメニューを見ると、お蕎麦がいろいろ載っていた。
しばらくお蕎麦メニューで迷っていたら、「飲みますか?」と店員さんがお酒のメニューも渡してくれた。


▲メニュー各種

実はせっかく来たのだから日本酒いってみたい気分だった。
とはいえ銘柄はさっぱりわからないのでどれにしようか悩んでいたら、カウンターごしに女将さんから「何飲みます?」とナチュラルに聞かれた。
「日本酒をなにか・・・」と尋ねたら、「メニューにないけどおすすめのあるよ」と言って、2つお酒を紹介してくれた。
そのうちの1つ『遊子』。山形と秋田の県境のお酒らしい。
この値段でなかなか飲めないよ、とのこと。
“この値段”がわからなかったけど、じゃあそれを、と頼んでみた。


▲なみなみと

すっきりとしつつ、お酒らしさもあってうまい。
「おいしいですね」と女将さんに伝えると、そうでしょうと笑顔を向けてくれた。

女将さんは、前の新聞広告の写真や似顔絵のイメージと比べたら、実物はなんか意外な感じがしたけれど、でもよく見るとたしかにそうだなって気がした。

つまみにだだ茶豆と玉こんにゃくを頼んだ。


▲小ぶりだが味が濃い


▲「熱いよ」と言われて出された。醤油の焦げた香ばしさと歯ごたえ。

お酒をちびちび飲みながら、それにしても、と改めて店内を見渡す。


▲(厨房にいるのは女将さんではない)


▲(私の後からお客は2組訪れていた)

壁には広告で使われた似顔絵のカラーの元絵や、過去の新聞広告をまとめたポスターがある。
カウンターには、20周年の記念でもらったのであろう熨斗付のお酒がずらりと並んでる。
別の壁にはサイン色紙が並べて貼ってある。有名人も来るようだ。
映画のポスターもこれでもかと貼ってある。宣伝に協力してるのかしら。
天井のエアコンは修理中ぽくて、ドレン用のホースが地下鉄でよく見かけるような感じになってた。(※FBより、現在お店はプチ改装中らしい)

ああ、自分はついに山形田に来てしまったんだなと思った。


▲山形田名物田舎板蕎麦は食べ応えがある

女将さんはちょいちょい気さくに話しかけてくれた。

このとき一番の話の種はコロナの影響だ。
やはりお客さんは減っているらしい。
あとは買占めの話など。

こちらが一人客なのと、お客さんが少ないこともあって、結構会話が続いた。

思い切って切り出す

ほんとはこの日どこまで話せるかわからなかったけど、流れで思い切って話してみた。

――実は私、東京新聞を取ってて、それで広告見てずっとこのお店が気になってたんです。

女将「それはありがとうございます」

そうして女将さんは新聞広告のことをいろいろ話してくださった。

女将「4月から広告が新しくなるんですよ」

――そうなんですか!?

女将「いつも載ってる市場だよりのコーナーが無くなって、今度はちょっと大きいサイズの広告になるんですよ」

いきなりインサイダー情報をゲットしてしまった。

新聞広告を出し始めたのは、2011年の震災後からとのこと。
東京から地元を応援する意味合いで広告を出さないかと、東京新聞の人に持ちかけられたらしい。
最初の広告は、新聞のタイトルの下。
1年くらいやった後、今度は、新聞のスペースができたときにそこを埋めるようなスタイルで広告を出すようになったそうだ。
これだと割安らしい。

女将「夕刊にも広告を出してて」

――知ってます。割り箸のやつ。

女将「あれ細長いスペースにどう入れようかなって考えて。最初は麺を箸で持ちあげるような絵も考えたんだけど、それだとラーメンと間違われるかもしれないと思って」

――たしかに(笑)

女将「それで結局、蕎麦屋ってこととお店の名前と、あとは電話番号があれば十分だなって思って」

――なるほど。シンプルだけどすごく考えられてたんですね。

実は自分が把握してた以上に、これまでいくつもの広告バリエーションがあったようだ。

女将「あそこにあるのが、これまでの広告をまとめたものなんですよ」


▲広告まとめポスター(山形田FBページより)

――あれってそうなんですね!

女将「有名人と一緒に写ったら注目度が上がるかなと思って作ったんだけど、有名人のほうにばかり注目されてその人のお店、みたいに思われてしまうから、これはダメだと思ってやめたの」

そういう経緯があって、ピンで映ってる広告に切り替えたそうだ。
有名人とのツーショットは、最初見たときフォーマットを利用したコラ画像かと思ってしまったのだけど、実はこれまでの試行錯誤の歴史だったのだ。

――私が気になりだしたのはたぶんその頃からだと思います。去年までの写真のやつで。あの背景ってこちらなんですよね。

女将「あれの背景、ハワイのレストランなのよ

――ハワイ!?えっ、そうなんですか!?

女将「別にいいかなと思って」

――まさか全然違う店だったとは……

とんでもない情報を仕入れてしまった。

なお、ピンの実写の広告にしたものの、これほんとにあなた?と(特におばちゃん客に)言われることがあったため、似顔絵バージョンに変えてみたとのことだった。

女将さんはわざわざ新聞を広げつつお話してくださった。

日本酒の2杯目も飲みほして結構いい感じになってしまっていたので、この日はこれで締めることとした。


▲この日のおすすめのお酒:1杯目の遊子と2杯目の松の司 どちらもおいしかった

まさかこんなにお話できると思ってなかったので、感激だ。

とはいえ、まだまだ気になることはあって、また改めてちゃんお話を伺えたらなと思っている。

「また来ます」と言ってお店を後にした。

その後の広告

女将さんの予告通り、3月31日で市場だよりが終わり――

4月に入って新しい広告が掲載された。


▲大きくなった!

サイズは横49mm×縦82mmで、2段分の高さの大きさに進化した。
前回のバスアップ似顔絵の、元の全身像の絵をアレンジしたもののようだ。


▲お店に飾ってた元絵

しばらく収集してわかったのだが、掲載ページはスポーツ面の一画が定位置になったようだ。
掲載頻度はかなり増えている。
また、5月1日より“祝二十周年”の文字がなくなり、お店の名前に変わった。


▲二十一周年に入ったようだ

●直近の取りまとめ


▲掲載率大幅アップ!

出会えてよかった~そしてこれからも

約半年に及ぶ山形田広告を追いかける記録は、今回はいったんここで区切ることしよう。

定点観測はもはや習慣と化してしまったので、これからも続けるつもりだ。
実はこの定点観測のおかげで、新聞を毎日ちゃんと読むという習慣も副産物的に得られたので、やってよかったと思っている。

山形田の広告については、まだまだ知りたいことや聞いてみたいことなどある。

いつかこのコロナ禍が落ち着いたあかつきには、改めてお話を伺いに行けたらなと思っている。

※ちなみに、この記事を書いてて、なんか恋愛ものの構成ぽいなと思ったのでキャプションをそれっぽくしてみたり。

謝辞

事前に記事のレビューをしていただいた山形田の女将の作間さん、ありがとうございました!
ポスターも使わせていただいてありがとうございます。

食べログ「銀座そばきりや 山形田」

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