【掌編小説】私のまんが道(1222文字)(2010.02)

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私のまんが道   作・藤川S

 

一月十九日
西田様 先日は原稿を見て頂きましてありがとうございます。早速、その時話題になった学園ラブコメの話のネームを描いてみました。お時間ある時でよいので、ご意見をお聞きしたいです。よろしくお願いします。
F川

一月二十六日
西田様 お疲れ様です。ご指摘通り、キャラの弱さを解消するため、モノローグを使わない恋愛描写を増やしてみました。あと学園のシーンも盛り込んでみました。よろしくお願いします。
F川

二月二日
西田様 お疲れ様です。主人公とヒロインの性別を入れ替えました。舞台を中学から大学に変えました。四十ページからなんとか二十八ページまで削りました。どうでしょうか。
F川

二月九日
西田様 お疲れ様です。女学生と大学教授との恋愛物に変更しました。一応描きましたが、これって不倫の話ですよね。雑誌的にありなのでしょうか。よろしくお願いします。
F川

二月十六日
西田様 お疲れ様です。意外と好評だった教授のキャラを生かして描き直しました。彼の若かりし頃です。しかし、研究職は地味過ぎだったと思います。
F川

二月二十三日
西田様 お疲れ様です。ご指摘通り、ミステリー要素を取り入れました。ミステリーは読んだことがないので不安です。とりあえず主人公が推理すればいいんですよね?
追伸 何故ミステリーなのかまだよく分かりません。
F川

三月二日
西田様 お疲れ様です。時刻表トリックに修正しました。描いといて何ですが、凶器が時刻表であるとか、時刻表で密室を作ったとかは、時刻表トリックといえますか?
F川

三月九日
西田様 お疲れ様です。クライマックスはバトルシーンに変更しました。ご指摘通り、より動きが出てきたと思います。問題としては、シリアスなのにどうしてもギャグにしか見えないことです。大丈夫でしょうか。
F川

三月十六日
西田様 お疲れ様です。前回のバトルを生かすために、剣と魔法のファンタジーの話に直しました。整合性をとるために、物語が壮大になり過ぎてしまいました。八十ページは多すぎですよね。
追伸 自分が何を描いているのかだんだん分からなくなってきました。    F川

三月二十三日
西田様 お疲れ様です。二十四ページまで削りました。体力も削りました。
F川

三月三十日
西田様 お疲れ様です。思い切って時代劇にしました。何だか私も思い切れたきがしました。
F川

十月某日。編集部のデスクで西田氏は、今期の漫画大賞の選考結果表を、万感の思いで眺めている。約半年に及ぶネームのリテイクに、F川嬢はよくついてきた。大抵の新人は途中で逃げ出すか、もう持ってこなくなる。しかし彼女は、毎週きっちりと欠かさず仕上げてきた。西田氏の考える、漫画家になるための条件とは、「漫画を描き続けられる力」があるかどうかだ。F川嬢はそれを持っている。しかもどんなジャンルの漫画も臆することなく描いてきてくれた。才能は十分。そして準備期間は終わった。
漫画大賞受賞で、F川嬢はデビューする。
彼女の「まんが道」は、これから始まるのだ。

 

(おわり)