【掌編小説】10がつ31にち、きょうは(1657文字)(2010.09)

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10がつ31にち、きょうは   作・藤川S

 

「まやは、おばけがみえます」
ママにいったら、「わかってるから大丈夫」といいました。
「きょうはハロウィンというひよ」
と、ママはいいました。だから、おばけがいてもおかしくないんだって。そういうものかぁとおもいました。

しょうてんがいでは、おばけとかまじょとかのかっこうをしたひとたちが、パレードをしています。まやもまじょのかっこうです。ほんとはようちえんのみんなといっしょにパレードにいかなきゃだめなんだけど、ママが、さきにかえってパパをびっくりさせようといったので、かえりました。

まいとし、10がつ31にちは、ママがケーキをつくってくれていました。とくせいのかぼちゃケーキです。ことしもつくってくれるんだぁとおもって、うれしくなりました。
でも、「きょうはまやちゃんがつくるのよ」と、ママはいいました。「まやつくれないよ」といったら、「ママがおしえてあげるからだいじょうぶ」といって、にっこりわらいました。
「まやちゃんはもうじがかけるんだよね。じゃあママのいうとおり、つくりかたもかいてね。だいだいつたわるひでんのレシピよ」
と、ママはいいました。
まやはまだじがじょうずにかけないから、ひともじひともじ、いっしょうけんめいかきました。
それから、ケーキもいっしょうけんめいつくりました。ママは、ぜんぜんてつだってくれませんでした。だから、ときどきまやは、おこったりちょっとないたりしてしまいました。
まえは、ママもすぐおこったりしたけど、きょうはおこりませんでした。こまったようなかなしいようなかおで、まやをみていました。

「まやちゃんはパパのことすき?」
「すきだよ」
「じゃあパパがよろこんでるところをそうぞうしてみて」
「うん」
「それをみてまやちゃんはどうおもう?」
「まやもうれしい」
「そう、そのかおよ」
「え?」
「まやちゃんもわらうと、パパもうれしいのよ」
「そっかぁ」
「わらってるとね、みんなもうれしくなるの。ママもうれしいよ。これからも、ずっとわらっていてね」
「うん」
「じゃぁのこりがんばろう!」
「おー!」

それから、やっとケーキができました。ママがつくってたみたいにじょうずじゃなかったけど、がんばりました。まっくろなまじょのふくが、こむぎことかで、まっしろになっていました。おそとはもうまっくらです。
そこへ、パパがかえってきました。「まや!」と、おおきなこえでいいました。
「パレードのとちゅうできゅうにいなくなったって、ようちえんかられんらくあって、かえってきたんだ!なにやってたんだ!」
と、おこりました。まやはちいさいこえで、「ケーキつくってた。ママと」といいました。「えっ」とびっくりしたパパは、ケーキにきづきました。
「これ、まやがひとりでつくったのか?」
「うん。ママがおしえてくれたんだよ」
「なにいってるんだ。ママはせんげつじこで……」
「ほんとだもん!つくりかただっておしえてもらってかいたんだよ」
といって、レシピをかいたかみをパパにみせました。
「これは……ほんとにママが?まや、みえるのか?」
「うん。ママはずっとそこにいるよ。ねぇ、ママ」
でも、ママはもうなにもいいませんでした。しずかにわらってそこにたっていました。
まやがゆびさしたほうをみて、パパはいいました。
「おれもだよ。あたりまえじゃないか。まやもそうだよな」
「なにが?」
「ママのことすきだよな?」
「うん!だいすき!」
ママは、すうっときえていきました。

「ケーキうまそうだな」
「うん。……パパないてるの?」
「ちがうよ。ヨダレだよ。おなかへったから。パパはくいしんぼうだからね」
「いっしょにたべよう」
「そのまえに」といって、パパはケーキにろうそくをたてて、ひをつけました。まやは、ふうっとふきけしました。
「まや、たんじょうびおめでとう。」
パパは、まやのかおをみて、そしてレシピのかみをみました。
いっしょうけんめいかいていたから、そのとき、まやはなにをかいているのかわかりませんでした。

『ありがとう あいしてる まや おたんじょうびおめでとう』

 

(おわり)